株式会社勝矢和裁 勝矢 珠容子
株式会社勝矢和裁 勝矢 珠容子

先立つあなたも、見送るご家族も、
旅立ちの衣装は考えたくない。

「縁起でもない」「年老いた親がまだ生きているのに、そんな物を用意するのは不謹慎だ」「旅立ちの衣装は揃えたいが、まだ先のことだから…」本当にそうでしょうか。核家族化が進み、身近に「死」を感じることなく、葬祭の式次第にのっとって粛々と進むお葬式…。そんな現代はいつのまにか、死装束を考えることさえ不謹慎なこととなりました。昔、赤ちゃんが誕生した時に産着を縫いました。それは白衣の反物にはさみをいれることなく、折って縫うという和裁士の高度な技術で出来上がりました(故上田美枝先生発案)。そして女の子なら、お嫁入りの時に産着をほどき、花嫁衣裳の打ち掛けとなったのです。そして、お嫁入りした後、その打ち掛けをまたほどき、このとき初めてはさみを入れて、白装束(死装束)を誂えて箪笥の奥にしまったのでした。それは、生命の誕生をお祝いした穢れのない白い産着から、人生の伴りょと巡り合ったお祝いの衣装となり、そして人生を終える者と、見送る方々の感謝という相互の愛情を持ってひとつの物語に終止符をうつのです。私は、最愛の夫を見送る時に、とても平常心ではいられませんでした。和裁という技術を仕事としているにも関わらず、お葬式をすませてずいぶん時が経って、その時に白装束の粗末なことが思い出され、今もひとつのしこりとなって心に残ります。後になって気付いてもどうしようもないのです。生前に用意するのは縁起がいいとも伝え聞きます。私と同じような悔いを残されませんように、白装束をぜひ箪笥の奥におさめておいてください。